スカートを履いた
先週、10年以上ぶりに私服でスカートを履いた。
自分のお金で洋服を買うときにスカートを選んだのは、今まで生きてきてはじめての経験だった。履いてみたら、自分で思っていたほど似合わないわけでもなかった。
かみの毛を短くして、ズボンばっかり履いて、「男の子みたい」って言われるのが嬉しくて恥ずかしかったあの頃。小学校を卒業して、中学・高校と成長していくにつれ、スカートはいつしか「履きたくない」ものではなく、「履いてはいけない」ものになっていた。
ニキビだらけの顔に、急激に増えた体重。逆にどんどん縮こまっていった自信。当時の自分の考えていたことはよくわからない。それがポジティブな意味であれ、ネガティブな意味であれ、自分だけ特別な人間だと感じていたのかもしれない。他のみんなと同じようにおしゃれしたり、可愛くなることは許されないと思ってた。思春期によくある自意識過剰でなんの根拠もない勝手な思い込みだ。バカバカしい。
あんなに悩んでいたニキビは、すっかり消えた。スカートを履くのと同時に、今までごってりと塗りたくっていた肌のメイクを薄くした。ニキビやニキビ跡の幻影に苦しまされていて、自分はそれを隠し通さなければならないという謎の義務に駆られていたが、実際今はそこまでひどくはない。普通のメイクで充分だということに、気づいたのだった。どうやら、ファンデーションを塗りたくったわたしの顔は、想像以上にケバく見え、薄いアイメイクとアンバランスでおかしく見えたらしい。
自分の中の自分像って、そう簡単に変わることはない。
わたしの頭の中には、ついこの間まで天然パーマでニキビだらけでただいたずらに太った冴えない中学生が存在していた。
それを、振り払ってもいいかなあ。
自分に「普通」なんて、普通の「かわいい」「幸せ」「女の子らしさ」なんて絶対に許されないと思っていた、悲劇のヒロイン染みた中二病をいつまでも引きずっていた。恥ずかしいことだ。
でも、スカートを履いた。
肌を覆う膜を一枚薄くした。
こんなに能動的に絶対痩せてやろうって思ってるのははじめてで。
今までのわたしがとんでもない馬鹿だったのは認めるし、決意するきっかけがどうしようもなくくだらない一時の感情によるものだっていうのは認める。今はこの努力が楽しいけど、そのうちまた飽きるんじゃないかって自分でも思う。
でも、ちょっとは進歩だと思いたい。
わたしはこの面倒くさい思考が外見からにじみ出ているから、モテないんだろうな。